前回のエッセイで、自分で書いた原稿を、「誤字脱字を直して下さい」とAIにすべて投げたら、とんでもない事になっていた。
見直しもせず投稿して、後から気がついたんだけど、「仕事」の「事」という字がひらがなになって「仕こと」となっていたり、
事務所、こと務所
物事、物こと
見事に、見ことに
食事、食こと
返事、返こと
これは一部だけど、すべて「事」というものが全部ひらがなになっていて、本当にわけのわからんことになっていた。この体験で、AIを信じ込んでしまうのはダメだなと思った。
だからこれからも、AIに全振りするわけではなく、ちゃんと自分で見直して書く。これを基本ベースで守って書こうと思う。
いつもギリギリ
布団の中で目覚めて、そこからゴロゴロしだす。
壁掛けの時計は電池が切れて止まっていたので、今何時か不安になる。もうスマホのアラームは鳴っていたから、朝の7時は過ぎているはずだ。
手元に置いていたスマホの画面をつけて、時計を確認すると7時40分だった。
そろそろ起きないと後がバタバタする。
わかってはいるのだが、もう少し、もう少しと時間は過ぎていく。今日は風の強い日だったが、肌寒くもなく、半そででも快適な金曜日だった。
デイルームのドアを開けると、もう8時5分を過ぎていた。
いつもこんな感じだ。余裕を持って動けばいいのに。
毎日のルーチンをギリギリの時間まで遅らせて、気持ちいいはずの朝が焦りによって、慌ただしさに変わってしまう朝になる。
最近思う。人は習慣で出来ている。
日々の生活の積み重ねで出来上がった習慣に支配され、生きているのではないかと。いや、生かされているのではないかと思ったりするのだ。
食習慣と血液検査
「尿酸値が高いね。そしてこれ、総コレステロールも高くなってきてるよ。これを見ると、おいしいもの食べ過ぎじゃないですか。特にアルコール増えてませんか」
そう言う僕の主治医は、先日行った僕の血液検査の表を見て、僕に尋ねる。
「ああ、飲酒量は増えましたかね。ハイボールを500ミリ2缶、いや、3缶飲むときもありますかね」
「そうでしょうね。この値を見ると、どうもアルコールが悪さをしているような気がしますよ」
言葉は丁寧に、物腰柔らかく、僕の顔を覗き、数字から割り出された僕の体を見透かして、飲酒習慣を言い当てられた。
「それに、よく食べてますよね。運動してますか」
「運動はコナミで、まあ頑張ってはいるんですけど、いかんせんひとり身なもんで、買ったら、買っただけ食べてしまうんですよね。ひとりパックなんか売ってないじゃないですか。だから鶏肉なんかパックで買ったら、全部鍋に入れちゃうんですよ」
「それね、ちょっと半分冷凍するとか、サランラップに包んで明日の食材にするとか、そのひと手間つけれませんか?」
「不精なもんで、その日の食材はその日食べてしまう。そんな感じなんですよね」
そう。高級食材なんか食べてもないし、高級な店にも行っていないし。いや、行く時もあるけれども、そんな頻繁に行くほどのものでもない。
結局、食べ過ぎが原因というのは、鍋を作ろうと思って買ってきた食材を一気に全部入れちゃって、一人分以上の鍋を一人で食べてしまう。
そんな食生活、食事習慣、こういうものがついていたので、コレステロールが高くなっているのだろう。
酒についてもそうで、コンビニに行く習慣がある。
ふらっとコンビニに寄る。あの明かりに吸い寄せられるように。
そして冷蔵庫を見ていると、冷たそうなハイボール缶が並んでいて、あの喉越しと喉を通る冷たさと炭酸とが思い出されて「1個買って行くか。いや、2つ買って、いや、3つ買って行くか」という買い物習慣ができてしまっている。
習慣によって自分の体ができていると思えば、この習慣を断ち切らないと、血液検査の改善は見込めないのだろうなと思う。
物事の見方
診察室を出て受付の方に行くと、のんべさんがこちらの方を見て、
「山本さんって独身だったんですか?」
と言うので、
「そうだよ。独身だよ。まあ、結婚はしてたんだけどね。でも解散したんだよ」
解散という言葉に吹き出した、のんべさんが、
「そうなんですか。解散したんですね」
とケタケタと笑った。
「そう。伝説のロックバンドでも解散するじゃない。それと一緒だよ」
と僕は冗談めいて言った。
昔は離婚なんていう言葉は口にできなかった。未練を引きずっていたし、体裁的にもかっこ悪いと思っていたから。離婚をしたと言葉にしてしまえば、その現実が一気に僕の心や体に突き刺さってくる。そして離婚をした事実も認めたくはなかったので、あえてその話題には触れずに避けていたようなところもあった。
ただ今はちょっと様子が違って、一回二回離婚したところで、自分の人生は自分で生きているわけだから、他人の評価で自分の生き方を変えるのは、他人の人生を生きる事だと思っている。
相手の期待や世間の期待に沿うのが僕の人生だとすると、僕の人生はもう他人の手に委ねられているのと一緒で、僕はあくまでも自分自身の人生を生きたい。だから、体裁なんて言葉は今の僕にとってはノイズでしかないわけだ。他人がどう思おうと、他人の問題であって僕の問題じゃない。というのが今の僕の考えだ。
だから離婚という言葉を口にすることは、比較的簡単だったし、そして別れた妻の幸せは、やっぱり妻の考えでもって、妻の人生の上に成り立つものであるから、子ども達の期待や僕が妻を求める重荷なんかに振り回されて、カタチづくる妻の人生があるとしたら、やっぱりそれは少し違うような気がする。
少し変わった女性であるけれども、(変わったところが僕は好きだったのだが)その変わった感覚で、彼女独特の感性で、この世の中を彼女らしさで踊るのが、彼女にとって楽しい人生になるのだろうなと思うのだ。
発想を変える
とにかく飲酒習慣を変えるには、自分の意志力だけでは到底及びつかない問題だったので、自分の意志力や決意とか、そういったものに頼らない仕組みが必要だろうなと考えた。
それに気がついたのは、息子と話していたときだった。
息子が店全体のことを見ながら、一人の女性スタッフに目がいっていたときのことだ。自主性がなく、指示待ちの彼女に、どうしたら動いてくれるんだろうかと、息子は考え悩んでいたときがあった。
このときに息子は、その女性スタッフに対して
「陣頭指揮をお願いします」
と言ったのだったが、
「いや、私なんか無理です」
と謙遜に、いや、もしくは本当に嫌だったのかもしれなかったし、自信がなかったのかもしれない。本当のところはわからないが、とにかく彼女は断った。
この彼女の反応に対して、息子はどう考えたのかというと、お願いして断られるのであれば、もうこちらから陣頭指揮をしなければ店が回らないという状況を作り出せばいいと考えたということだ。
つまり息子は、
「今日はやる気がないわ。ああ困った、やる気じゃない。ああダメだ、もうあと頼みます。もう僕は全然やる気ありませんから」
と、自分からリーダーをするのを放棄した。というか手放した、演じた?
すると見事に店がぐちゃぐちゃになってきて、彼女が息子の代わりをせざるを得ない状況になり、その彼女が陣頭指揮を執ったらしい。まさか自分が陣頭指揮を執り、店を回すことになろうとは思わなかった彼女だったが、見事にできてしまい、(もし失敗していたら息子はフォロー入れるつもりで観察していたのだが)彼女は、「あ、私でも陣頭指揮が執れるんだ」という成功体験を得ることができた。
そこから彼女の進撃は始まって、自信を勝ち得て、積極的に動いているということだった。
この話の最後に、息子は「人は環境で変わるから、僕は環境を作り出している」と表現した。
自主性がないのは、何かしらの原因があって、その原因は彼女が克服すべき問題であり、周りが彼女の課題に干渉する事は出来ないが、しかし、それを乗り越える環境は作り出すことができる。
ここで彼女は乗り越えるためにチャレンジしようとするのか、それとも逃げ続けるのかは彼女の選択の話だが、今回の場合はそれが見事にはまって、彼女は自分の能力に気がつき、今や積極的に活躍しているという話だ。
この話を思い出して、ああ、人は環境で変わるんだな。意志力とか決意とか、そういうものではない。であれば僕は食べ過ぎないという環境を作ればいいし、飲み過ぎないという環境を作ればいいんだろうな。
という考えに至った。
ダイエット再開へ
「今日、晩ご飯何しようか」
と、いつもだったら悩むのであるが、悩みながらスーパーを練り歩くのであるが、その結果、買いすぎるわけなのであるが、今日はそれをやめた。
ラーメン「神座」に行き、おいしいラーメンと半チャンセットを注文した。これが夜の19時頃だ。車で行っているから飲むことができないという環境で食事を済ませ、そのままスーパーにも寄らず、コンビニにも寄らず、そのまま家に帰って風呂に入った。
風呂上がりのハイボールが欲しいところであったが、冷蔵庫を開けても何も入っていない。そこに食べるものがなければ、アルコール類も一切ない。
寝巻きに着替えてしまって、
「ああ、飲みたいな」
と思っても、もう一度着替えてコンビニに行く手間を僕は乗り越えられない。無精なもんだから、もういいや、なければないでいい、我慢しようとなる。
そして22時頃になってくると腹が減ってくる。でも食べ物がないから食べられない。ふっと目につくとアールグレイがあって、「よし、アールグレイ作って腹を満たしてしまえ」と、温かいアールグレイを一杯、二杯と飲み、体が温まってくればウトウトとし始め、そのまま寝てしまった。
環境を作ることだけで、これだけ僕の行動が変わってきた。
選択肢がなくなったからだ。
飲もうか、飲むまいか。こういう選択肢があったときに、考える暇なく、パパッと冷蔵庫に行って冷蔵庫を開ける。「あ、ハイボールがあるわ」と取る。それでプシュッと栓を開けてグビグビっと飲むまで、まあ20秒はかからないだろう。この短い時間で、意志力で耐えて、「今日は飲まない」と選択する事は、たぶん難しい。
だから環境で、そもそもそれがないという環境を作り出したことで、断酒に成功したということだ。
こうして第一週1日目が終わった。
実践
今日のデイサービスのお昼ご飯はけんちんそばだった。茨城名物だそうだ。小芋やら豆腐などが、こんもりと入っている。
お昼ご飯を食べ終わったとき、いや、食べる前だったか。中山さんが僕のところにやってきて、
「主任、一人分余ってるんですよ。晩ご飯にとっときましょうか? 」
もじゃもじゃの頭に、くりくり小さな目が動いて言った。僕はその顔を見るといつも吹き出す。面白い顔だなと。いや、これは本当に褒め言葉だ。中山さんらしいコミカルな雰囲気が表情にも出ている。
実際のところ僕はいらなかったのだが、
「じゃあ置いといて」
と言ってしまった。
今考えてもなぜそんな返答をしたのかわからなかったが、たぶん決断を先延ばしにしたんだろう。僕は無精な方だから。いる、いらないを、今ここで決めてしまうより、
「あ、置いといて」
と決断を先延ばしして、また後で考えればいいやぐらいに思ったに違いない。で、そのけんちんそばは置いておかれることになったのだけども、看護師の中原さんが帰り際に、
「主任、私も帰ります。今日はお疲れ様でした」
と丁寧に挨拶してくれたと思ったら、
「主任の分、お盆に乗せて冷蔵庫に入れておきましたから」
と言ったのだった。
一瞬、僕は何のことを言ってるのかさっぱりわからなかった。けんちんそばを置いといてと言ったことさえ忘れていたのだから。
仕事が終わり、中山さんが、
「主任、今日の私の体重見てくれました? めちゃくちゃ下がってるでしょ?」
と笑って言った。体重の増減だけがグラフに表されていて、中山さんの体重それ自体は知らなかったが、基準の体重をゼロとすれば、もうマイナス3キロ、4キロといったところまでグラフは下がっている。
「主任が、あのダイエット部を作ってくれたおかげで、私めちゃくちゃダイエットにはまってます。今日もピラティスに行ってきます」
ピラティスというのは、たぶんジムの名前なのだろうか。僕が行ってるコナミと一緒だろう。ピラティスというところで、たぶんヨガなりボクササイズであり、まあそんなものをやっているのだろう。
「今日も今から行ってきます」
「え、今から行くの? ご飯とかは?」
「もうちゃんと作ってますから。18時半からなんで今から行けば間に合います。だからちょっと個室で私、着替えて行きますんで覗かないでくださいね」
「覗くわけないだろ」
と僕は呆れる。
更衣室から出てきた中山さんは、ピンクのレオタードみたいなものを着ていて、その上にシャツをかぶって、下半身の形をあらわになっていて、非常に露骨におもちゃ体形だった。
「まるでふきのとうだね。いや、マカロニか」
なんてことを僕は口走ってしまって、
「なんですか。私の体、棒みたいだっていうことですか。でも私の体は昔から棒なんですよ。でも最近痩せたから腰のあたりがキュッと引き締まってますよ」
とてもうるさかった。いつも以上に調子づいて話しているように思えた。もう早くピラティスでもどうへでも行ってほしかった。
僕は今からエッセイを書いて、そっからけんちんそばを食べなきゃいけないんだ。それからコナミに行って、ひと汗かいてからひとっ風呂浴びて帰ってくる。
その間、コンビニに寄らないというのが今日のミッションだ。コンビニに寄ってしまったら、間違いなくハイボールを買ってしまうだろう。
ここが僕の分かれ道だ。
中山さんがドアから出て行き、またドアを開けて首だけ出し、
「けんちん汁、食べるの忘れちゃダメですよ」
と言ったので、
「けんちんそばだろ・・・。」
と言って、彼女はやっと帰ってくれた。
そっから僕は厨房の冷蔵庫を開けると、ちゃんとラップをしてお盆に乗せて、そしてメモ書きで「主任さんの夕食 11月6日金曜日」と書かれた大きなメモが貼られていた。中原さんが僕のために、ここまでしてくれたのかと可笑しくなった。中原さんは江戸っ子弁で話す、ちょっと上品な看護師だ。その人が「主任さんの晩御飯」と丁寧に冷蔵庫に入れてくれたんだろう。
危なかった。
これを食べずに忘れていたら、どえらいことを、どえらい失礼なことをするところだった。
危なかった。
ありがたく僕は中原さんの用意してくれた晩御飯を、レンジでチンして食べた。非常に不味かった。出来立てではないから、やっぱり不味い。
これで、今日の晩御飯が終わり、家には何もないので、これ以上食べすぎる環境はない。
とにかく断酒をして運動をして、そして血液検査の数値を改善させる。
これがまず第一のミッション。
で、第二のミッションは、お腹の出てる醜い体をしっかりと引き締めて、裸になっても恥ずかしくないようにする。
ここで初めて・・・書くべきだろうか、ここ。
うん。そう。
もう色気をね、僕は出したいんだ。今、全く色気がない。だって女っ気がないんだから。自分の体に自信が持てれば、何かしらの色気が出てくるんじゃないか。
なんてことを僕は思っていて。
恥ずかしながらこのおっさんでも、なんか色気が出ると、なんかこう、ラブなロマンスがやってくるのではないかと、淡い夢を見ている。
いや、恥ずかしいな。こんな想像してる時が一番楽しいんだろうな。
