どうやっても尖るんだな

今日はあご出汁を使ったおでんにするか。

時間もないことだし、卵はスーパーにあるゆで卵を購入するとして、あとの具材はこちらで用意しよう。「ああ、そうだ。」と思い出す。すじ肉は煮込まなきゃいけないので、もう煮込んである真空パックを買おう。

あとは厚揚げ、骨付きの鶏肉、ごぼてん、大根、きんちゃく餅などの材料を買って、鍋に放り込んで一時間ほど煮込んだら大丈夫だろうな。

少し多めに作っておこうか。息子は食べるからな。そんなことを思いながら、僕は買い物をしていた。

今日は夜勤で、利用者さんの食事を作る。そのついでに息子の分も作ってやる。

眠い。本当に眠い。

前日、息子に淡路島の土産を渡すために肉も買ってやったが、話したいことがあったらしく、デイルームでずっと話を聞いていて、結局夜中の3時まで喋っていた。

今日も息子は遅いだろう。

すごく眠い。本当に眠い。

目次

ノイズだらけ

利用者さんは寝たので、デイルームの電気をパチパチと一つずつ消し、薄暗くなった中で、ホッと気持ちが穏やかになる。Youtubeで「ひぐらし」と検索を掛けて、夕暮れの田舎を再現する。そして、僕はベッドに横になった。

時間は21時だったが、睡魔に抗う事が出来ない。息子が帰ってくると、また頭をフル回転させなきゃいけないので、僕はそれまで仮眠を取ることにした。

夢の中に落ちて、何か夢を見たのだろうか。一瞬で時間が過ぎ去ったような気がする。

突然、デイルームのドアがガタガタと鳴り、びっくりして目が覚めた。

「なんだ、なんだ。」と状況がわからず、少し混乱していると、息子が入ってくるなり、

「もうダメ、現場が大混乱だ」

と大きな声で話し始めた。

そこで僕は思い出す。そうだった。息子の晩ご飯を作ってやらにゃ、と。もうすでに出来上がっているので、温め直すだけだった。IHコンロの電源を入れ、スイッチを入れる。

15分もすれば食べられるだろう。

すべての具材を大盛りにして、息子の目の前に置く。麦茶も並々とコップに注いでやる。「さあ、腹いっぱい食え。」と、おでんからは湯気が立ち上がっていたが、息子は一向に食べない。

「もう店長、消費ばっかりする。どないなってんだろ」

と息子は身振りを強くして、言葉を投げ捨てるように続ける。

「せっかく僕がスタッフを育てているのに。さあ頑張ろうと現場も温めてるのに、冷や水ばっかりかけられる」

眉間にしわを寄せ、目は険しく、声は大きかった。寝起きの寝ぼけた意識でも、ざわざわとする感覚が伝わってくる。ノイズだらけの負のオーラで、デイルームは満たされていくようだった。

前向きにぐしゃと潰す

「店長は投資しないんだよ。消費ばっかりする。使い捨てや」

と息子は僕に訴える。

が、僕は息子の言っている事が、さっぱりわからない。投資をしない、消費ばっかりする。何のことを言ってるんだ。具体的な話が出てきていないので、僕はわからないまま息子の言葉を浴びせられている。

「消費ってどういう意味だよ」

「だから、売り上げを上げるために教育しなくちゃいけないの。『コレしてくれる?俺はアレするから。やることわからなかったら、聞きにこい。そしたら俺が指示する』。新人にこういう関わりを繰り返してきて、やっとそいつが学び初めて、僕の仕事の見方を感覚的に身につけて、自分から動き出して、使えるようになったんだよ。わかる?」

息子が僕の目を見て、「わかる?」と聞いてくる。落ち着いて話せば理解できようもあるが、こう語気を強められて、不満をぶつけられたら、話を聞くほうも落ち着かない。

何が現場で起きているのだろうと考える間もなく、息子は上から言葉をかぶせてくる。

「やっと成長させたのに、そいつが辞めるって言うんだよ。『俺たちここまで頑張ってんのに、アホらしい』って言うんだよね。その気持ちはすごくわかるんだ。仕事の出来るスタッフに業務が集中するんだよ。この構造を変えるために、しっかりと新人教育していかんとダメなのに、店長は何もわかっていない。売り上げの数字だけは出てから、万事OKだとニコニコしてるんだよ。スタッフの不満は溜まり続けてるのにさ。」

せっかく作ったおでんが、どんどん冷めていった。

「この前、最高の売り上げを出したんだよ。めっちゃ忙しくて、僕が他のスタッフに指示だして、みんなめっちゃ動いて頑張って、クタクタになって、品出しができなくて、もう明日にしようと帰ったんだけど、次の日に呼び出し食らって、『なんで残業して品出ししないのよ』と副店長に怒られたんだよ。そんなことある?今までの史上最高の売り上げを叩き出してるのに。そんなことある?」

「それは多分、午前中のスタッフから文句が出たんだろう。だから副店長も、クレームが出てるから対応しなくちゃいけなくて、『午後からのメンバーにちゃんと言っときます』としか言えなかったんだろう。」

「それにしても、午前中のメンバーが品出しが遅れることだってあるよ。そしたら、晩のスタッフにしわ寄せが来てるんだよ」

似たようなことが、僕の職場でもかつてあった。

1階のデイサービススタッフと2階の小規模多機能スタッフが喧嘩をしだすという。1階のスタッフがすべての利用者さんの送迎を担っていたので、2階のスタッフは一階の掃除を手伝ってやれと僕は指示をしたが、「嫌だ」とふてくされた顔で僕に言った。

そして、「運転できるのがそんなに偉いの?」ということを言う始末だった。

完全に壁ができていて、何をするにも1階スタッフと2階スタッフの顔色をうかがわないといけなかった。その間を取り持つのもアホらしかったので、強引に混ぜた。シフトで入れ替え制にした。それを嫌がるスタッフが続出したが、このまま喧嘩の相手をするよりも、一度ぐちゃっと潰して整理してやろうと思った。

居場所を追われたスタッフは辞めていき、揉め事はなくなった。

多分あの時と同じで、息子の働く職場も、一度ぐしゃっとならないと変わらないんだろうと思った。その時期はもうそろそろなのかもしれない。

現場の状況

「もうみんな言ってる。みんなで辞めようぜって」

「お前、それに乗るなよ。不満がある。改善されない。自分らばっかり働いてる。損だ。だからみんなで辞めようぜ。この言葉に絶対に乗るなよ。」

と息子を目を見て言った。さらに続ける。

「こんな時、ちょっと冷静に観察してみろ。誰か一人、不満の種を蒔いてるやつがいるぞ。あっちでこそこそ、こっちでこそこそ。不満を焚きつけて、面白がっているやつがいる。その可能性が高いからな。そんなやつに踊らされるなよ」

と僕は念を押した。

「そんなやつはいないよ」

と息子は続ける。

「自然に不満が溜まっていくんだよ。だって店長は人に興味がないからさ。あまり現場に出てこず、事務所にこもりっきりで。他のスタッフにもバイトにも、あまり声をかけないんだよ。コミュ障っていうのかな。で、他のスタッフが『ここを改善してほしいんですけど』『ここをこうしたら良くなると思うんですけど』って、いろいろ言っても、『わかった、改善するよ』って言うだけで、一向に改善されない。なんか甘く見られてるよう感じで、使い捨てなんか俺たち?ていう不満になって、こうなってるわけだよ」

これを聞いた時に、「ああ、なるほど」と、やっと現場のことがわかってきた。

うーん、まさに昔の自分を見ているようだ(苦笑)

スタッフとの間に壁を作って、あまり話しかけない。現場にもあまり出ない。そんなのは昔の僕だったから、不満が積もり積もって、気がついた時にはもう対処できない、といったことになった。

今では常に現場にいて、どこかに行く時も、「ちょっと事務所に行くよ」とか、「ちょっと庭の花を買いに行くから」とか、必ず行き先を言って出るようにしている。さらに、スタッフとは何でもないようなことでも、ひと言ふた言、会話を交わす。

今日も夜勤明けの休みだったけど、「〇〇さん、あとよろしく頼んどくね」と、全員に声をかけて僕は出た。

処遇が低くても、仕事の能力差に不満があっても、経営者から「ありがとうね」「ごめんね」と声をかけられる。それだけで、気持ちが落ち着くこともあるんだろう。

多分、ここだろうな。

息子の職場でも、できるやつとできないやつがいる。いろんなやつが働いているだろう。で、そいつらは誰を見ているかというと、やっぱり店長を見る。店長にどう思われているのか、どう評価されているのかが気になる。

その店長にちょっと話しかけられる。ねぎらいの言葉をかけられる。それだけで、いろんな不満が影を潜めることもある。そういう気遣いなんだろうな。そこが足りないんだ。

そうか、わかってきたぞ。

副店長も真面目だから、言われたら注意しなきゃいけない。でも、不満が溜まっているところに怒るものだから、怒られたほうは、さらに不満が増幅する。そして抵抗勢力として対処できなくなるのだろう。

副店長もしんどいところだな。

なかなか難しい・・・

「これは店長が気づかないと、ちょっと難しいな」

「だろ。そうなんだよ。店長はプレーヤーじゃないから、人のマネジメントをしなきゃいけないのに、それができてないから不満が溜まるんだよ」

「まあ、そうかもしれないけれども、やっぱりちょっとした気遣いだよな」

「そう、それ」

やっと問題の本質が見えてきた。

あれやこれやと飛び火して、いろんなことに不満を重ねてしまうと、いったい何が本質なのか、まったく見えなくなる。

「とにかくだ。お前はこの不満の塊を、一歩も二歩も下がって観察しとけよ。一緒になってわあわあ言うんじゃないぞ。お前の目的が何なのか、忘れるなよ」

と言って、それからため息交じりに続ける。

「まあ、とにかく早く食べてくれよ。パパ、もう眠いんだ」

息子はすっかり冷めたおでんを食べる。おいしそうに食べているのか、まずいのか。さっぱり僕にはわからない。作った甲斐がないな・・・なんてことを思いながら、ちょっと悲しくなる。

「わかったよ。もう黙って働くよ」

と息子は無表情な顔をして、背筋を伸ばし働く真似をした。それを見て、必ずこいつは態度に出すだろうと思った。

「ああ、もうやる気ねえ」

っていうふてぶてしい態度で、「こいつらバカじゃね?」と心の中でつぶやくのだろう。

僕はざわざわと不安になったので、

「明日休みか?」

と聞くと、

「休みだよ。服を作るよ」

おでんを食べて、肩を落とした息子が言った。

どこかに誘ってやろうかと思ったけれど、服作りの邪魔をしたら悪いだろうと思い、

「晩飯でも食いに行くか」

と一言添えた。

・・・息子だな

わかっていた事だけど、息子はなかなか難しいな。

ぶっちゃけ、息子はいつもトップスピードで走っている。それが危うさを生んでいるなと感じる。

今回だって、この店はまだまだ売り上げを上げられる。だからチームを率いて俺が頑張る。結果を出すためにぎゅっと尖って一点集中で突破する勢いだったんだろう。実際に、尖ったチームを作り上げる過程に面白さを感じたのかもしれない。

そして、実際にやってのけたんだろう。

まだまだやれると、本気になればなるほど目につくものもあるし、尖れば尖るほど、温い事を言われるとイラッとすることもあるんだろう。

確かイチローが言っていた言葉で、「結果は困難を伴って出すべきであるし、そうじゃないと結果はでない」というのがあった。全員が全員、そんな熱い想いを持っているわけではないので、当然に摩擦が起きる。






なんだか息子もそんなタイプに見えてきたよ。

これ、僕ひとりで息子に適切なアドバイスができるのか。

もっと俯瞰して見られるママの目があればな、と思うよ。



黄金の風

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この記事を書いた人

福祉事業の経営をしてます。①小規模多機能のケアマネ②現場の介助③厨房で料理作り④体操教室など地域ボランティアをしています。
「やってみる」を軸に人生の幅を広げます。ウインドサーフィン・登山・カメラ・バイクはSV650・競馬・FX・株式投資・投資信託などなど。体験を記事にしています。

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