HANABI

朝から雨が降っていた。

昨夜はりんくうの花火大会に行ってきて、生活に変化をつけた。花火大会という変化だったが、思わぬ刺激で僕の感性は窮屈になったり、癒されたり、切なくなったりと、花火のように儚い感情が沸いては消えていった。

帰りに泉南イオンで晩御飯を買い込み、蒸し器に入れて野菜の料理を愉しむ、ハズだったが、蒸し器の下にたまったミネラルたっぷりの残り湯で、雑炊をしたのが失敗だった。

見事に食べ過ぎてしまって、僕のお腹を抱えて苦しくなった。

目覚めの朝は6:00だった。バタバタと激しい雨がベランダの屋根に打ち付けていた。妻の鏡台に埃が溜まっているのが見えた。空気洗浄機を囲むように洗濯物が乱雑に積み重なっていて、空気洗浄機からは「ヴゥゥゥ」と静かに音が響いていた。

冷蔵庫から出したミネラルウォーターをコップに入れて、ひと口飲むと喉元から胃にかけて冷たい感覚が、まっすぐに道を作っていった。

さぁ、今日はどんな変化を僕の生活に持ち込もうか。

目次

花火

そういえば、今日も二色の浜で花火大会が開催されるようだ。ウォーキングがてら歩いて行ってみようか、しかしこの雨だし中止じゃないのかとHPを確認すると、運営はまだ望みをつないでいるようだ。

大々的に告知しているイベントなので、そうやすやすと中止の判断が出来ないのだろう。昼12:00開場と書かれてあったが、Xでは悪天候のため14:00に延期すると書かれてあった。17:30からは吉本興業のライブも行われる。たぶんお客さんはガラガラだろう。

前回も雨で中止になったこのイベントは、またもや雨に降られて中止かどうかの瀬戸際にある。その顛末を野次馬根性で見に行くのもアリだと思った。

いや、ちょっとまてよ。マジで楽しそうじゃないか・・・

こんなカオスな状況が想像しただけで、胸に熱いものが沸き上がった。今頃、運営は最後の望みに賭けている。

アメダスで確認すると、19:30では雨が降っている。小雨かもしれない。20:00には完全に雲は晴れている。この微妙なラインで揺れているハズだ。イベントはこの雨でお客さんがいないだろうから、露店の売り上げはたぶん赤字だろう。最後の駆け込みで黒字とはいかないまでも、人件費ぐらいは出るかもしれない。

これは行って現場を見ておこうっと思った。

ボタボタボタとビニール傘に高速道路から雨粒が落ちてきた。隣はシャーっと水を弾いて車が通り過ぎてゆく。水たまりが歩道脇に溜まっていて、雨が落ちて細かい波紋が次々と出来ては消えてゆく。

こりゃどう考えても花火は中止だな・・・

雨の中をウォーキングするのも良いものだなと思った。家の中で四方を壁で囲まれるより、頬を撫でる風を感じたかったし、変わってゆく景色を感じたかった。

時々、追い抜かしてゆく半透明の雨合羽を来た自転車がいたが、たぶん彼らも花火を観に行くんだろう。湾岸線を抜けて、貝塚の埋め立て地まで歩くと、だいたい5kmの道のりだった。ダイエット部が出来て僕はウォーキングを欠かさず続けていたのもあり、歩き慣れた距離だった。蹴りだす力がついてきたのか足取りが軽快だ。

住宅街に入ると夕陽がうっすらと見え始めて、曇った空をオレンジ色に染めていた。あの雲がこちらに流れてくるから、雨が止むのも時間の問題だった。

奇跡が起きたな・・・運営もホッとしているだろう。

あと少しで会場のところまで来ていた。

トラブル

二色の浜まで行くと有料エリアでバリケートだらけのような気がした。住宅街から人がぞろぞろと人が向かっていて、この雨でも中止のアナウンスがされていないところをみると、これは雨でも強行ということだろう。

傘が連なって会場に向かっていく。その流れに入るとやっぱりゲートがあった。このゲートを突破できるのか怪しそうだなと思ったら、蛍光のジャンパーを着た女性に「リストバンドはありますか?」と尋ねられた。

リスバンドの無い僕は、やっぱりここで足止めだ。仕方がなく僕はゲートへの最前列で花火をみる事にした。前は腰までの植え込みで、前は開けていたので、十分ここでも楽しめそうだ。今から場所を探して移動するよりは、ここに決めてしまったほうが良いような気がした。

透明ビニール傘にポツポツと雨の音が、立体音響のように傘の中で響いている。目を閉じれば不規則なリズムが心地良かった。

雨はやみそうにないな・・・

そう思った瞬間、一本の光の筋が空へ吸い込まれていったと思ったら、「パーーン」と鮮やかな花火が咲いた。たくさんの傘は傾きを変えて、花火の明かりを顔いっぱいに受けた。「雨でもやるんだな」と誰かが言った。

ここから60分の花火ショーが始まる。

が、しかし、1発上がったきり、次が上がらなかった。次々と花火が打ちあがるイメージだったが、1発上がった後は、なにも上がらない。誰もが「うん?」と首を傾げただろう。

するとしばらくして、また1発打ちあがった。辺りがパッと明るくなり静まる。その後は何も起こらない。1発放って静かになる。

なにかがおかしいな・・・

そう誰もが思っていたと思う。隣の客がついに「雨だからトラブルかもしれないな」とつぶやいた。いっきに雲行きが怪しくなる。雨は依然ポツポツと降り続き、最悪なことに冷たい風が陸から海へと流れて、木の葉をカサカサと強く揺らし始めた。

横の女性が、運営のSNSをチェックしはじめ、なにが起きているのか調べ始めた。今にも「強風のため中止になりました。」とアナウンスされそうな雰囲気に包まれていた。

開始から20分が経った頃に、花火の1発、そして1発のリズムが整ってきて、次第に花火ショーといえるまでに息を吹き返した。透明傘ごしに水滴が光って、辺りが赤や青やらの色に照らされた。


軽快なリズムで花火が舞う。雨は降っていたけれど、だんだん小雨になってきている。花火も順調だ。安心して見ていられた。

そして、僕の足は辛くなってきた。最前列にいた僕は、隣の人の傘とぶつかっていたし、僕がふいに傘を動かせば、後ろの人が見えないだろうと配慮していたから、あまり動かないようにしていたら、足が悲鳴を上げ始めた。

やっと花火らしくなったが、あと30分も花火ショーは残っていた。

耐えれるんだろうか・・・

万博の花火

「足が痛いわ。歩きすぎたな。」

僕は大屋根リングを息子と一緒に歩いていた。もうすぐ花火ショーとドローンショーの時間だから、多くの人が大屋根リングに登ってきていた。

「もうじじいだな」

息子は笑って先を歩いている。

「ちゃんとついて来いよ。」

「あぁ、わかってるよ。」

昼から炎天下のなかパビリオンを回ってきたから、すっかり身体は火照っていた。足取りが重いし、混雑具合にうんざりもした。

「まだ行くの?」

「もう少し先、あの大屋根リングで白くなってるとこあるだろ。あの後ろぐらいから花火が上がるから、そこまで行こう。」

「めっちゃ遠いじゃん。行く前に花火が始まるよ。」

「帰る方向だから。どうせあっちに歩くからさ。」

何度も来ていた僕は、もう万博のパターンがわかってきていた。エレベータが封鎖される前に大屋根リングに登り、花火を見て、ドローンショーを見て、大屋根リングを半時計周りで歩いて帰る。

「開幕の時、最悪の万博だなとか言って、もう来ないとか言ってたじゃん。」

「まぁな。あれから視点を変えたんだよ。万博で何かをしようとしたら失望するけど、ちょっと散歩しようとか、アメリカ館でハンバーガー食べようとか、ドイツ館で本場のビールを飲もうとか、そんな程度で楽しめば面白くなるんだよ。そのための通期パスなんだから。」

「ふーん。そうなの。通期パス買ってくれたけど、これ2回目だわ。」

「もったいねぇなぁ」

僕と息子は縦になって歩きながら、キラキラ光るパビリオンの夜景や、大屋根リングのライトアップで真っ黒のシルエットになった群衆の中を、いろいろ話しながら歩いた。

「あのさ、人の関係ってのはさ、水みたいなもんでさ、今も刻々と形を変えているんだよ。だからさ、潤っている時もあれば、枯れてしまう時もあるんだ。」

息子は歩きながら黙って聞いている。

「これはさ、ママに教わったんだよ。夫婦だから夫婦関係があるわけじゃないし、親子だから親子関係が続くわけでもない。そういうことを、この何年かでようやく分かったんだと思う。」

結婚している時に、妻は僕に事あるごとに言っていた。

「おーい。」と僕が言うと、「おーいって誰に言ってんの?私は名前があるんですけど」と。

ふと、そんな事を想い出し、妻の言いたかった事がスッと降りてきた。

「関係は育てるものだ。」っと。

息子にこの言葉が届けばいいが。

「パーン」と鳴り遠くのほうで花火が打ちあがった。群集は動きをとめて花火を見上げる。

このまま歩くと、群衆を避ける事に意識を向けないといけなかったので、僕たちも群集の動きに合わせて歩みを止めて花火を鑑賞した。

次々と大きく上がる花火は、だいたい15分で終わる。だけどラストの大玉の花火が見ごたえがあった。

フィナーレ

あれから1年が経った。

息子の見る景色を隣で見続けている。

花火のように一瞬のキラメキのなかに、想い出として刻まれてはいるものの、息子との関係は水のようなものだと思う。常にカタチを変えて流れを変えてゆく。

今日はひとりで、二色の浜に万博の再現をするという花火大会に、雨の中を歩いてきた。

あわや中止かと思われた花火は、雨天でも決行され、あわや不発で大失敗かと思われたが、運営の願いが天に味方し、雨も止んで、なんとかフィナーレまでこぎつけるという状況にまで、盛り返した。

フィナーレを飾る光の玉が、何本も線となって闇夜に消えてゆく。一瞬の間があり、これでもかと大玉がいくつも炸裂した。あたりは強烈な光に包まれて、花火に飲み込まれそうに言葉を失う。

大屋根リングごと群衆が光に包まれ、僕と息子は降り注ぐ花火を見上げていた。



Fight Song

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この記事を書いた人

福祉事業の経営をしてます。①小規模多機能のケアマネ②現場の介助③厨房で料理作り④体操教室など地域ボランティアをしています。
「やってみる」を軸に人生の幅を広げます。ウインドサーフィン・登山・カメラ・バイクはSV650・競馬・FX・株式投資・投資信託などなど。体験を記事にしています。

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