サービス付き高齢者住宅の選び方
この記事は
それを知ったうえで選ぶためのポイント
現役のケアマネージャーが体験して感じたことをまとめています。
ある日の出来事
サービス付き高齢者住宅は、住宅という位置づけゆえに比較的軽度な方が利用する設計だと聞いている。賃貸住宅で少しの介護を受けながら他の入所者と共に生き、自由に外出したりして人生を楽しみ生活するところだと思っていたが、現実は少し違うようだ。
寝たきりや認知症の方が入居している。
生きるための介助が行われている。
サービス付き高齢者住宅を取り巻く環境
これは理由はふたつあると思う。ひとつめは、オープンして歳月が経ち入所した当初は元気だった方が重度化したから。ふたつめは介護報酬の減額で当初のビジネスモデルでは成り立たなくなり、苦渋の選択で介護報酬の多い要介護4.5の方を優先的に入所してもらう方向に経営転換したから。
前者のほうは、グループホームや小規模多機能や、特別養護老人ホームでも良く聞く話である。施設がもつ機能があるので、適切な施設へと紹介し転居してゆくといった流れになるのだが、後者のように重度の方を優先して抱え込む方針は、施設機能とミスマッチを起こす場合は事故等のリスクが高くなる。ムリがあるのだ。
そもそも論でいくと、サービス付き高齢者住宅は、高齢者専用賃貸住宅である。この住宅に介護が付いている。住宅内で提供される介護は介護保険を利用してもらう。介護サービスの利用の選択は利用者及び家族が自己決定する。
だが実際は、サービス付き高齢者住宅のビジネスモデルの中に介護保険が組み込まれ、利用者や家族の選択の幅はほとんどない。
ビジネスモデルの方向転換。
サービス付き高齢者住宅の収益モデルは
利用者の負担は、①②④でだいたい13万~15万が最低の利用料となる。
事業者の売り上げで大半を占めるのは③の介護保険報酬。これは以下のとおりで介護度が高ければ高いほど収入があがってくる。
つまり介護報酬で収益化しようとしたら、介護保険の限度額ギリギリまで施設内の介護保険サービスを提供しまくったら介護報酬は上がる。
だから要介護4.5の人を優先的に入居するので寝たきりや認知症の人ばかりになる。そして施設設計とミスマッチになってゆく。ムリがあるから事故も多い。現場で働くスタッフにも負担がかかってゆく。
僕がケアプランしてきた経験から言って、要介護5の方に対しては介護保険サービスをいっぱいいっぱい使っても足らないぐらい介護量は多い。ホントに単位数が足らない。だから障害サービスも利用したりして支えてゆく。
しかし、要介護1とかならまだまだ自分で出来るところはある。過剰な介護保険サービスの利用は、かえって体を悪くさせてしまい寿命を縮める。
介護報酬の高い重度の入居者が多い。
要介護1の軽度な方に過剰サービスは自立を妨げる。
ケアプラン自立支援の原則
人間は本来、今日の事を考え、明日の事を考え、自己決定をしてアクションを起こす。この日常の営みが心に張りを与え、意識と体を活動させ、生活そのものがリハビリとなり、結果的に身体能力は衰えることなく維持される。
ここに事業者の思惑が入り、過剰サービスが行われると、例えば洗濯や掃除などの身の回りの事を介護保険のヘルパーさんが代行してしてしまうことになる。過剰サービスにより次第に活動量は減り、毎日を家事などの役割もなくただベットでテレビを観て過ごす日々になる。
そうなると身体能力が一気に低下する。低下すると寝たきりになるまでのスピードが加速し、認知症の発症リスクを高めてしまうことになります。
サービス付き高齢者住宅の選び方
適切な介護サービスの量か?
介護サービスはケアプランに基づいて行われます。入所前にモデルのケアプラン(利用票:実際のサービス量を記載したもの)をチェックしておいたほうがいいです。その施設でのモデルケアプランがある場合がほとんどです。入居した後のサービス内容の参考に見せてもらいましょう。もし掃除や洗濯が自分で出来るのであれば介護サービスは必要ない。自分の事は自分でする。これを徹底できているサービス付き高齢者住宅を選ぶことが大切です。
外出できる環境か?
サービス付き高齢者住宅の1階にデイサービスが設けられている施設があります。どういう事かと言うと、施設内から一歩も外に出ないでサービスが完結するという抱え込みです。今まで利用していたデイを利用し続けられるのか確認しましょう。利用できたとしても曜日を減らされる事が多いです。
「うちのデイサービスを利用してもらわないと困ります。」と言われたら、迷わずそこは選択から除外しましょう。入居者にとっては牢屋です。
外出する機会がなければ、次は認知症発症のリスクが高まります。規則正しい生活をして、外出し太陽にあたり、他者との交流を通じて自己の存在を確認します。その一連の行為から社会的な自己の価値を知り、自らの人生に生きがいをもって歩く事ができる。どんなに歳を重ねても、介護が必要になっても、それだけは守ってあげて下さい。人としての尊厳です。
スタッフの笑顔はあるか?
挨拶がない、もしくはスタッフに笑顔がない。これは労働過剰で余裕がない施設によくみられます。特に経営不振で人件費を増やせないところは、ひとりあたりの介護量が多くなる傾向にあるので、事故が起きるリスクも高いです。
スタッフから積極的な挨拶はあるか?
やり甲斐を感じて働くスタッフには笑顔があり挨拶があります。反対に余裕がなければ、職場環境が悪く人間関係もボロボロだと思います。人間関係が最悪なところはチームケアが出来ていません。つまり報告・連絡・相談が出来ない関係性です。例えばオムツを履いていないとか、クスリが余ってくるとか、転倒したけどどこで転倒したのかわからないとか、いろいろおかしな事が起きてきたりする。チームケアが円滑に出来ていないからです。
建物の見た目は?
台風でもきたら倒れてしまうのではないかといった簡易なつくりの建物があります。これは先行投資をケチっているからです。介護報酬は建物の優劣に関係はありません。ということは売上げ主義の経営方針であれば先行投資は削減すると思います。でもよく考えて下さい。建物は入居する人の生活環境になるところです。そこを削るという方針には僕はあまり良い印象を持ちません。
共用スペースは大きくとられているか?
廊下そして部屋、そして食堂。これで完結した施設があります。これも売り上げ重視。入居者に快適に過ごしてもらう、もしくは入居者同士のコミュニケーションに配慮するのであれば共有スペースはしっかり作るべきです。隣人とのいざこざがあるのです。暮らしには退避場所もいるのです。こういったところでも施設の方針がみてとれるのでしっかりとチェックしましょう。
法人はどこでも一緒。
医療法人・社会福祉法人・NPO法人・営利法人とさまざまなところがサービス付き高齢者住宅に参入していますが、法人の種別とサービスの質は特に関係ありません。病院系列の施設のほうが医療とつながり安心といった声が聞かれますが、病院も医療報酬の削減で介護保険に参入してきているにすぎません。
要は経営者の運営方針と、そこで働くスタッフの質で見極めるのが重要です。経営者の考え方が、スタッフの態度に表れてきます。あなたが喫茶店で注文をとるウェイトレスの態度を見るように、施設内で働くスタッフの見て、建物を見て、入居者の状態を見て、ケアプランを見る。これが最適なサービス付き高齢者住宅の見極める方法です。
最後に
サービス付き高齢者住宅の選ぶポイントを書いてきましたが、たぶんこれを読むのは入居する本人でなく家族でしょう。僕は居宅のケアマネージャーです。暮らしなれた地域で住み慣れた自宅で生活し続ける事が最も幸せなことだと思っています。
今後、2025年までに地域包括ケアシステムが整備されて、本人と家族を地域と専門職で支える環境が出来てきます。在宅でのリスクを受け入れ、地域と共に介護が出来る日が来ると思います。
施設に入ると弱ってしまうリスクがあることを覚えておいて下さい。
書籍紹介
地域包括ケアシステムについて
自分の人生を最後まで自己決定するために
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