夕陽の輪郭

今日の仕事が終わり、エプロンを外してカウンターに置いた。

庭を見ると花が満開に咲き乱れている。特に百合がエロく熟女のようだった。豊満なボインを揺らしながら、夜のお誘いをされているようだ。

国華園を球根を買ってきて、冬の間に埋めたものだけど、伸びに伸びてつぼみが大きくなって、それでもなかなか咲かなかった百合が、咲いたと思ったら妖艶な百合が性欲を熱く放っていた。

すんごい熟女がやってきたな・・・。

目次

胸いっぱいの深呼吸

ダイエット部で、参加者の体重の増減がグラフ化される。そしてコメントで「夜に食べるのを我慢した」とか、「ウォーキングした」とか書いてあるので、お互いに影響される。

仕事終わり、面倒臭いなと頭をよぎるが、みんな頑張っているのだからと、ウォーキングに向かう事にした。

いつもの無料のバイク置き場に到着すると、バイクだらけだった。いつもなら2~3台ぐらいしか停まっていないのに、停めるところを探さなくてはならないほどだ。

少し歩くと、浜辺のほうで青年団らしき青年たちが集まっていた。何をしているのかわからないが、たぶんバイクの数からして、彼らだろうとは想像できた。

二色の浜には海テラスというのが最近出来た。コテージが立ち並び、素泊まりで15000円ぐらいする。高い部屋だと20000円はするのだから、お金持ちはどこにでもいるもんだと感心する。

ほぼ毎日、ウォーキングに来ていたが、海コテージは連日明かりがついていた。

海コテージを抜けると、手つかずに残った埋め立て地があり、その向こうにゲートタワービルが見える。雑草が生い茂る向こう側に少し大きな木が、こっちを見ているような気がしたので、思わず写真を撮ってみた。

なにを撮影しようとか考えずに、思いついた構図で撮影して歩く。あたまをボーっとしていないと、スッと景色が入ってこなかった。

考え事をしていると、ウォーキングの景色がモノクロになる。風も感じる事が出来ないし、流れゆく雲も、輝く太陽さえモノクロになった。

僕はウォーキングをするときは、頭を空っぽにして歩くことにしている。

まっすぐに道を歩くと、その先には埠頭がある。階段を登れば、一気に視界が開けた。思ったよりも強い潮風がぶわっと身体に当たり、風の塊は通り過ぎていった。

僕は胸いっぱいの深呼吸をした。

釣り人

埠頭沿いの道を歩くと、海がキレイに見えた。前が大阪湾で南港ATCが見える。左に目をやると神戸のほうだ。うっすらと明石海峡大橋が見えた。明石海峡大橋の左は淡路島だ。

空には間隔をあけて旅客機が関西空港へ着陸態勢をとっていた。その数は次々と降りてくる。海には大きな台船があり、なにかの作業船だろうか、最近は位置を固定してなにかしているんだろう。海と陸の境目に堤防とテトラポットあり、間隔をあけて釣り人が並んでいた。

堤防の上を釣り人が歩いてゆく。

好きな事をしている人を見るのは、とても気持ちが良かった。

太陽が輝き海面をキラキラと照らしている。そのうち空と雲をオレンジ色へ染めてゆくだろう。僕は刻々と情景が変化してゆくなか、潮風を浴びてウォーキングを続けた。

大股で、いち、にい、さん、しいっと。

クロとナルト

釣り人や、僕みたいなウォーキングしている人に餌をもらおうと野良猫が住み着いている。一匹はクロと勝手に名付けた。黒猫だからだ。こいつは片目をケガしていて、たぶんケガした眼の視力は失っていそうだった。もう一匹はクルクル巻きの模様がある茶色の猫で、こいつはナルトと名付けた。

クロとナルトは贅沢な奴らで、このまえわざわざ家から持っていってやった出汁を取る干し魚をやったが、見向きもしなかった。ちょっと臭いをかいでしらんぷりだ。

今日はスープカレーをした時に余ったウインナーを持ってきてやったのだけど食べるだろうか?

だけどクロもナルトもいなかった。クロのいるところはベンチのところなんだけど、いくら探しても見当たらない。風が強いからなのか?いつもだったら道で寝転んでいるハズなのに。クロは図太くて僕がギリギリ近づいても逃げようともしない。逃げ切れる自信があるんだろう。

折角のウインナーだったのに。うまそうに食べるのを想像していたぶん、なんだかつまらなかった。

仕方がない、このまま先に進んでナルトに全部やろうかと心残りだったけど歩き始めた。ナルトは坂の近くに住んでいる。ナルトは警戒心が強くて、なかなか僕には寄ってこない。餌付けされている人には身体を触らせているようだが、癒しを振りまく水商売の女みたいな奴だ。

ノミとか考えるとナルトに触る気は起きないが、ウインナーをやってシャウエッセンの旨さを教えてやろうと、僕は歩みを速めた。

しかし、ナルトもいなかった。いつも植え込みに隠れているのだけど、どの穴を探してもいなかった。僕のもってきたウインナーは、結局だれも食べてはくれず、持って帰る羽目になった。

とてもつまらなかった。毎日ウォーキングにきて、毎日、クロとナルトに出逢うのが日課だったが、今日に限ってどこにもいないなんて。

「まぁ、いつもいるとは限らないしな」

そう思ったら心がふと軽くなった。

潮風を顔に浴びて

気がつくと黄色の太陽は、水平線近くまで降りてきていて、空をオレンジ色に染めていた。堤防の道には夕陽を狙うカメラマンが脚立を立て始める。

僕は歩みを止めて、カメラを持ち夕陽を眺めていた。何枚か撮影はしたのだが、太陽がゆっくりと明石海峡大橋の向こう側に沈んでゆく瞬間は、ファインダー越しではなく、自分の目で眺めた。沈んでゆくほど、太陽の輪郭がはっきり見えた。

雲に遮られる日もあるが、今日みたいな湿度が高い靄がかかっている時ほど、お月さまのように太陽の輪郭をハッキリ捉える事ができる。

上空の雲は途切れ途切れに夕陽を隠してはいたが、最後はその雲の下から、見事な真ん丸の太陽があった。海に着水して焼いてゆく。ゆらゆらと滲むように海に溶けてゆくようだった。夕陽が本当にこの瞬間に沈んで見えなくなってしまうまで、僕はずっと眺めていた。

潮風を顔に浴びて、眼球が乾いたが、見逃すまいと瞬きを我慢した。

幽霊みたい

小学校の教室から、授業中によく窓の外を流れる雲を眺めては想像にふけっていた。ゆっくりと流れてゆく雲を見ているのが大好きだった。

特に夏の入道雲はハッキリと輪郭があり、わた菓子のようで、そして何層にも白が塗り重ねられて、青空のなかに輪郭をくっきりと浮き立たせていた。僕はそんな入道雲が大好きだった。

遠くを見ているからか、いつも視力表の一番下まで答える事が出来て、周りの生徒は驚いていた。それがとても自慢だった。

いつからだろうか、僕は好きだった雲を眺める事をやめてしまった。

あれだけハッキリ見えていた輪郭はぼやけてしまって、僕は、たぶん、いろんなものを失い始めたのだと思う。自分の好きなものを手放して、僕は自分の目ではなく、他人の目で見た事が大切な事だと思い始めた。

視力表の一番下は答えられなくなり、あてづっぽうで答えてみたが、視力は1.5と表記された。それでも周りの生徒は驚いたのだが、僕は以前のような誇らしい気持ちにはなれなかった。

名古屋の居酒屋で、僕と妻と三花さんと、ルイスと、ルイスについてきた女性と飲んだ時のことだ。

「君ってだんじり祭りって感じしないよね。」

僕が祭礼団体に所属しているのを聞いて、その女性は率直に感想を言った。ルイスにひっついてくる女性は、いつも独特な雰囲気をもっていて、ルイスとおそろいの指輪をしているあたり、単なる知り合いとは思えなかったが、その女性は僕をずけずけと値踏みするように見ていた。

「そう?祭りって感じしない?」

さすがというか、その通りだった。祭りは男社会でスポ根みたいなイメージだ。当時の僕はその質感は持ち合わせていなかったので、その女性は持ち前の嗅覚でかぎ分けたわけだった。

「それにさぁ、君ってさぁ・・・幽霊みたい。」

と言い放った。隣で僕と女性の会話を聞いていたルイスは大爆笑だった。幽霊?と僕は彼女の言葉の意味がわからなかった。

今ならわかる。幽霊になっているほど、僕の輪郭がなくなっていたんだと。

そして、離婚した直後、自分の輪郭はほとんど見えなかった。夫でもなくなり、父親でもなくなり、何者なのかよく分からなくなった。

あれから7年。

ようやく少しずつ、自分の輪郭が見えるようになってきた気がする。

輪郭はハッキリ浮かび上がる

夕陽が沈んでしまった。最後の一瞬は、短い線になり、その線がどんどん短くなって点になって消える。何度も何度もウォーキングする最中、夕陽が沈むその一瞬を見たくてウォーキングの足を止めた。

朝日も、昼の太陽も眩しくて見ていられない。少し見るだけで、眼球の中にぼやけた緑の残像が点々と残る。だけど夕陽だけは違った。ハッキリと見る事が出来た。沈めば沈むほど輪郭はハッキリ浮かび上がる。

沈んでしまった太陽は、上空を飛ぶひこうき雲を金色に照らしている。沈んでしまってもハッキリと存在がわかった。そして沈んだ太陽は、明日になればまた同じ輝きを見せてくれる。

そう思うと不思議なものだと思えた。今もどこかを照らして、そして明日には再び僕らを照らす。

もし、沈まない夕陽を見る事が出来たら、夕陽の素晴らしさは感じられなくなる。夕陽は沈んでしまうから、その一瞬を見逃さまいと瞬きをこらえるのだ。

Could You Be Loved

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この記事を書いた人

福祉事業の経営をしてます。①小規模多機能のケアマネ②現場の介助③厨房で料理作り④体操教室など地域ボランティアをしています。
「やってみる」を軸に人生の幅を広げます。ウインドサーフィン・登山・カメラ・バイクはSV650・競馬・FX・株式投資・投資信託などなど。体験を記事にしています。

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