今日の気温は予報で38.0℃だった。
登山部で集まった今日は、大和葛城山を登る予定だった。エアコンからゴーと風が吹き出していた。窓の外は太陽のきつい日差しが降り注ぎ、町を白に反射させていた。涼しいより、冷たい車内は快適そのものだったが、一旦ドアを開けると湿気たっぷりの熱気のある空気が入って来た。
葛城山ロープウェイ第一駐車場に到着して、登山の準備をしているだけで、汗が噴き出てきた。額から流れる汗はボタボタと滴になって、アスファルトに落ちてはすぐに蒸発していった。
「さぁいくで。ここから何時間で到着できるかな!」と勢い投げるように、さっくんが言った。さっくんは祭りの仲間で、僕より3つ下で、頭の回転が速くて行動も早い。早すぎて相手の事を考えず、言葉を選ばず、人の話を聞かずに突っ込んでゆく。
先日の祭りの戻る戻らないの問題も、さっくんは戻るために根回しをし始めた。ただ僕の中では1日ゆっくり考えてから答えを出したかったから、LINEで「みっちゃんに根回ししといたから電話して」と、また暴走しだした。相変わらずのさっくんだ。
ロープウェイの駅を過ぎたところからイノシシ侵入防止柵を越えてゆくと、木々が生い茂り太陽を遮る。風はなく土の香りと湿気がこもっていた。少し行くと登山口と書かれた札があり、そこは目を疑うほどの急こう配の登山道だった。
目の前の木の根を持ち、体を支えないと上がる事が出来ない。一気に汗は噴き出して、筋肉が悲鳴を上げる。みんなのペースに合わせてゆくと体力が削られた。
僕は黙ってペースを落とし、最後尾をゆっくりと無理のないペースで足を進めた。ジグザグに登山道は急こう配が続いていて、途中で休んでいるジョージと板を追い抜かした。ジョージというのはあだ名で、演歌歌手の山本譲二に似ているかららしいが、僕は全く似ていないと思う。リーダーシップのあるジョージはバテていた。そして板は、いつも山ガールを連れて来るのだが、今日は声を掛けなかったようだ。嫁さんとトラブル中ということで、女を連れているとマズイのかもしれない。真相はわからないが。
ゆっくりと確実に登っていると、ジョージと板が追いついてきて、僕を追い抜いていった。ブーンとアブが耳元で回る。汗の臭いに寄ってきているのだ。タオルを首から取り、振り回しながら追い払う。虫よけスプレーを服の上にスプレーして虫よけを強化する。
夏の登山は、虫との戦いだ。さっくんが虫よけで虫を殺してくれと言ったが、虫よけは殺虫剤じゃないし、一匹、二匹を殺したところで何になるというのだ。そこらじゅうから虫は這い出てくる。だから顔や体に止まらせず、刺されないようにするだけで精一杯だ。
するとまたジョージと板が休んでいた。「ひんやりシートあるけど使うか?」と言うと、ジョージは受け取り、板は「大丈夫です。」と言った。顔がもう真っ赤になっている。見た感じ大丈夫そうじゃなかったが、僕は僕で人にかまっている余裕がない。
「先にいくよ。」と言い、僕は自分のペースを崩さず彼らを追い越した。まるでウサギと亀だ。コツコツと歩みを進めて、休憩はしない。次第にウサギに追いつき、そして追い抜いてゆく。そしてジョージと板はついにリタイアとなった。
「下山します。ロープウェイで登りますので、山頂で待ってます。」とLINEが来た。
自分のペース
8:15から始まる連続テレビ小説が始まった。これがスタートの合図だ。僕は教科書の入った思いカバンを担いで、靴を履いた。つま先をトントンとして靴を履き終えると、大きく息を吸い、ゆっくりと走り出した。
中学生の僕は、ここから3年間、同じ朝を迎える事になる。遅刻ギリギリのスタートで、まっすぐ学校へ走る。この時間、諦めて歩いている生徒がチラホラいたが、決して僕は歩かない。ゆっくりでも絶対に走っている。
線路脇の道をひたすらに真っすぐ。僕の右側を車が追い抜かしてゆく。寝ぐせで髪の毛がクルっと巻いていて、ぴょんぴょんと身体の動きに合わせて揺れている。いつものたこ焼き屋を左に折れると遮断機があり、チンチンチンと鳴り響ていたが、単線だから十分に渡れる距離だから、左右を確認して大丈夫なら一気に行く。
この遮断機を越えれば学校が見えてくる。ただし校門までは塀沿いに200mはあった。そこからがラストスパートだ。塀沿いに一気に駆け抜け、左に第4コーナーを曲がれば、生徒指導の先生が校門前で立っていて、「走れー。遅刻すんぞー。」と叫んでいる。この時点でもう8:30ぐらいだ。チャイムが鳴り始める。このチャイムが2往復鳴れば、校門が閉じてしまう。
「急げー」と生活指導の先生が青いジャージを履いて、白いポロシャツで手をあげて叫んでいる。
呼吸が苦しくなり、首を上げて走る。左右に空が揺れて、鼓動がドクドクドクと速くなり、さぁ、間に合うか!というところで門が目の前でガシャーンと閉じた。
僕は首をうなだれて、肩で息をして、ポタポタ落ちる汗をそのまま流させておく。膝を両手で持ち身体を支えて、ハァハァハァと息が整うのを待った。
「また遅刻か。」と先生は言い、「もうお前の名前と組みは覚えたよ。」と呆れていた。僕は遅刻の常連だったから、常連の顔は覚えてくれた。
「今日は遅刻でも、明日は間に合いますよ。」と僕は応えて生徒手帳を渡した。先生は名簿に僕の名前を記入して、生徒手帳で頭をこずき、あと5分早く起きろ!と言った。
冬にマラソン大会があった。学校の周りを周回する。あの学校の塀沿いを走るコースで、走り慣れたコースだ。知らぬまに僕はマラソン向きの体つきになっていた。毎日の成果だ。学校の周回を終えて、グラウンドの中に入ってテープを切った。見事優勝してしまった。
それを見た生活指導の先生は、大笑いしていた。「お前、遅刻マラソンで鍛えた足か。優勝するって遅刻も無駄じゃないな。」と僕を指さして笑っていた。
昔からだ。昔らから自分のペースでコツコツするのが特技になった。どんな逆境に置かれたとしても、コツコツと這い上がる。それが僕のペースだ。
小説
書けば書くほど上達するのが面白い。プロットを書いたのだけど、登場人物が勝手に動き話すから、どんどんプロットが変更になってゆく。
人は反応で生きている。
どこかで読んだのだが、どこで読んだのかは覚えていない。これが人の本質だと思う。人は自分で判断していると思っているが、実は反応の連続で、意識するより早く反応して自己決定している。息をするごとく、無自覚なのだ。
自分の価値観があり、それに沿って、反応を繰り返しているだけ。だから生き方を変えるとは、価値観をごっそり捨てなきゃいけない。それがなかなか出来ない。それは今まで生きてきた事を否定する行為だったりするから。いったん、価値観を書き変えてしまえば、あとは反応が変わるから、生き方も変わる。この7年で培った体験のひとつだ。
だから小説に登場するキャラクターがどういった価値観を持っていて、どういう反応癖がついているのか。そこを作る事はかなり大切な事で、設定してしまえば、後は書いている間に、このキャラならこう反応するだろうと、自然に文章が出来て来る。
今、書いているところは、主人公の世界が一気に崩れてゆくところ。そんな時、自分が悪かったと反省する反応を示すだろうか?いや、すぐに反省出来る人なんてそうはいまい。きっと自分は悪くないと正当化するだろう。責任転換するだろう。物語を単純化させて、自分を守る反応をするハズだ。
そう反応を予想しながら書き進めてゆくと、結果的に物語になってゆく。
ピース又吉が、自信の処女作「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞した。Youtubeで又吉による読み語りが始まっているが、そこで情景の描写の事を話していた。
今、書いている小説でも情景描写を僕は多様している。人の心境によって、見える世界が違うからだ。恋人同士で夕陽を眺めていると、キレイなオレンジの太陽は二人を祝福してくれているようにうつるだろう。海面に反射したキラキラは二人の高揚感を演出し、カモメが二人の愛を運んでくるようにも見えるだろう。失恋したときならば、あの夕陽はかつて二人を照らしたが、沈みゆくふたりの終わりを象徴するかもしれない。
登場人物の心の動きで風景の買い方が違てくる。この書き分けが、ここが最近の僕の文章の成長で、書けば書くほど奥行きが増す。だから小説の最初と最後では、文章が全く違うという問題に直面していて、出来上がったら、また最初からリライトしないといけないだろう。
リライト中に、また新しいアイデアが浮かべば、また書き直しが発生する。永遠に終わらないのだけど、なんだか楽しい。とても楽しい。書くことがこんなに楽しい事だとは思わなかった。
ここでも自分のペースを崩しては文章が乱れる。書けなくなる。だから自分のペースを大切にする。コツコツと毎日、積み上げる。
ダイエット
スタッフを何人か誘ってダイエット部を立ち上げた。アプリを使って互いの体重の増減だけがグラフ化される。青が僕で順調に体重を減らしている。
グラフ化すると、基準体重(0kg)より下でいようと意識が働き、食べる量も、有酸素運動も、飲酒も続いている。そして他の人のグラフを見る事で、安心したり焦ったりもする。なかなかの相乗効果だ。

減り始めたのは、断酒をしてからだ。自宅呑みをしないだけで、ちょっとずつ体重は減ってゆく。有酸素運動で二色の浜を夕陽を眺めて歩く。暑いから走らないけど、走ったらもっと体重が下がってゆくだろう。
ダイエットもやるだけだ。毎日5km以上は歩く、断酒する、22時以降は食べない。これをコツコツ続ける。たまには飲み会があって体重がぐんと上がるのだけれど、再度再び軌道に戻す。
夕陽がキレイで、雲がほとんどなくて、神戸の方まで空気は澄んでいた。トンボが群れをなして潮風を泳いでいた。澄んだオレンジ色は、僕の進む道に影をつくり長く伸びている。海面は波がほとんどなく平らで、オレンジ色の光の道が太陽へと伸びていて、両手を広げて風いっぱい体に受けて深呼吸をする。
太陽へ続く光輝く道をしばらく眺めていた。太陽は次第に輪郭をつくり、ゆらゆらと海の向こう側へ落ちてゆく。それを僕はひとり眺めていた。いつまでも、いつまでも。
妻
妻とはもう7年も会っていない。避けられているから、嫌われているから、会ってくれないし、連絡もとれない。電話もLINEもシャットダウン。ブラックリストに入れられているから、どうしようもない。
今は、それでもいいやと思う。人の心はわからない。特に妻の心のうちはわからない。わからない事は、わからないままにしておこう。そう思えるようになった。
コツコツとマイペースで進んでも、妻に近づける事はない。妻の心をつかみとろうとするのは、水を抱くようなものだ。だから僕はわからないまま、そのまま置いておく。手を伸ばさない。掴み取ろうとしない。ただ感じるだけでいい。それだけで大切に出来る。
ここだけはコツコツマイペースでいられないものもあって、やきもきするし、ヒヤヒヤするし、ハラハラするし、7年たっても、僕に影響のある女性なのだから、本当にたいした女性だと思う。
いちいち反応してしまう僕も、そこだけは昔のままで、なかなかに変えられない。このままずっと片思いも素敵なのかもしれないし、それも僕らしさなのかもしれない。
