ライトサイクル京都
最近の僕の X は、写真で埋め尽くされている。ファインアートと言って、見たまま、そのままを感じるというアートだ。
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Ömer Yilmaz pic.twitter.com/GhF0yRsgmK
— marysocontrary (@so_contrary) January 12, 2026
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昔はどこぞのインフルエンサーが、今の政治はとか、最近の仮想通貨はとか、HSP という人種はとか、自己啓発セミナーのようなポストで埋め尽くされていた。
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Rohit Bhattarai pic.twitter.com/CvtDDDFqIV
— Ama_r (@Paraguscolors) January 10, 2026
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息子と話していて、世の中のノイズが思考を邪魔してくるので、あまりSNS を見ないという話をしていたのを思い出して、僕もフォローを整理することから始めた。そもそも他人の考えてることなんかどうだっていいし、再現性のない話を、一生懸命に読み漁る事に、何の意味があるんだろう。
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Lee Miller. Irmgard Seefried, Opera Singer, Singing an Aria from Madame Butterfly, Vienna Opera House, Vienna, Austria, 1945. pic.twitter.com/GZA1Aro6OC
— Paolo Streito (@Paolo1264) January 11, 2026
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そして、自分の好きを軸に、素敵な写真を見つけては、フォローしはじめた。
息子の最近は、服作りに熱心で、商業的な服はパターンが決まっているとかで、全く興味を示さないけども、だからこそ、かっこいいと思える感性を磨くことに、意味があると話していた。
だから感性を磨くイベントに出会った時は、一度チェックするようにしているし、行けそうなタイミングで参加するようにしている。今回の話で登場するイベントは、SNSでのプロモーションで見つけた、京都府立植物館の温室エリアをライトアップしているというものだ。夜の植物園を特別に開放して開催している。
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期間限定2月28日まで開催しているということで、息子を誘ってみることにしたんだけども、直前で、「ごめん。ちょっと良いアイデアが思い浮かんだので服作りに励む」と言った LINE が入り、まあそれは、邪魔しちゃ悪いなと思い、結局ひとりで見に行くことになった。
2人で行くのであれば、車で移動するつもりでいたんだけど、先日京阪電車で京都に行って、運賃が意外に安かったのを思い出し、電車に変更した。
京阪電車の終点である出町柳駅で2つの川が合流することになる。この2つの川のうち、賀茂川沿いに京都府立植物園があるようで、いい感じじゃないか、電車で行こう、ということになった。
偶然の空席
僕は駅のホームで電車を待っていて、土曜日の夕方なので、多分座ることはできないだろうなと、半ば諦めて待っていたのだけども、電車のドアが開くと、パッと横切る男性がいて、なんだろうと思ったら、どうやら席替えのために移動したらしかった。
今、ホームに入ってきたのは特急列車で、進行方向に向いたふたりがけの席に席替えした男性がいた。慌てて車内を走り移動したものだから、オレンジ色のペンを落としたようで、床でくるくると回っていた。席にこだわりがあるようで、たぶん電車マニア?なのかもしれない。
そして、その男性がもともと座っていたとこに、僕はすんなりと腰掛けることができた。両脇は黒い服を着た女性が座っていて、右側の女性はスマホを触って、左側の女性は少しウトウトと寝ている。遠慮がちにカバンを膝の上に置き、邪魔しないように僕はひと息き着いた。
音の世界
電車をゆらゆらと揺られて、広告を眺めたりしていると、電車は地下から地上に移り、外はもう暗くなって、ふと見上げると、つり革が同じ方向に揺れていていた。面白いように同じ方向へとゆられるつり革を眺めていると、だんだん首が疲れてきて、抱えたカバンに顎を乗せて、僕は目を閉じた。
すると驚くことに、車内にたくさんの乗客がいるのに、人の話し声が全く聞こえないことに気がついた。ガタンゴトンと、レールの連結部を車輪が走る音とか、チーンチーンチーンと大きくなっては小さく消えていく遮断機の音とか、ガタンゴトンが大きく反響してゴゴンゴゴンゴゴンと陸橋を通過する音とか、電車のモーター音がスピードに応じて音域を変えて行く音とか、心地の良い音の重なりが僕を包んでいった。
極端な単純さ
しばらく目を閉じていて音を感じていると、次は電車の揺れに呼応して、両隣の女性と微妙に肩があたる感覚や、温度感が際立ってきた。すると、車内の空間はだんだんと収縮し始め、僕と両脇の女性客だけの空間だけが、とてもリアルに感じられた。
人それぞれが性格が違うように、髪型も違えば、服装も違う、趣味も違えば、食べ物の好物の違う。年齢だって違うし、顔つき、放っているオーラ、使っているシャンプーや、香水の香りも違う多様多種の存在が、女性と男性に分けてしまえば、とてもシンプルな世界になる。僕は男で、両脇は女性。たったそれだけで、ふたつしかない。とか思い始めていると、途端に何か妙な感じがして、世界ってこんなシンプルな世界だったろうかと、しばらく奇妙な感覚を味わっていた。
シンプルな世界
プシューという音がしてドアが開いて、両脇の女性は立ち上がり下車し、僕の両脇は、一気に空間が広がり、温度感もなくなった。
そして入れ替わり入ってきた白い服を着た女性が僕の隣に座った。黒の次は白か、なんてことを思っていると、白い女性はカバンから文庫本を取り出し読み始めた。スマホじゃないんだと珍しく思っていたが、「白だからだろうな」と、自分でもわけのわからない理由で、考えるのをやめた。
そして僕は、再び目を閉じて、心地よい音に意識を向けて、1人の世界に入っていた。
にしても、黒の次は白か。この世の中には、いろんな色があるのに、黒と白か・・・。そんなことをふと思えば、なんてシンプルな世界なんだと心地が良くなってきた。
なんて心地が良いんだと思いながら、心地よい揺れに身を任せていた。
闇のミステリアス
列車は終着駅に着き、そこは地下の駅だったが、僕は急ぎもせずに乗客の密度が薄まるまで待ってから、ゆっくりとホームに降りた。するとエレベーターのところで人混みができていた。あの人混みに紛れるのは、なかなか体力が要りそうだったので、僕は人混みの中にぽっかり空いた階段を選んだ。
出町柳駅を出ると、駅周辺は明かりがあったけど、駅前の道からすっと伸びる橋に吸い込まれるように、暗闇が広がっていた。2つの川の合流地点なので、建物がないからだった。
ここから賀茂川沿いに歩くと植物園だ。本当に暗い路地を通って、目的地の植物園へ急いだ。車2台がすれ違うには、少し難儀しそうな道だった。両脇の家は大きな門を構えていたり、塀が続いていたり、なかなかの高級住宅とか思っていると、そのくせ軽自動車が止まっていたり、そして防犯なのか人を感知するとパッと明るくつくライトがあると思えば、半分朽ち果てた廃墟のような屋敷に薄暗く明かりが灯っていたり、なんだかミステリアスな街に迷い込んでしまったかのような感覚だった。
そして、どれぐらい歩いただろうか、20分、30分ぐらい経ったと思うのだけど、この先に本当に植物園があるのだろうかと不安になってくる。
人通りも少ないし、植物園に行くような客も歩いていないし、真っ暗闇だし、ミステリアスだし。
人がいない不安
不安を感じながら、Google マップを確認すれば、やっぱりこの先に植物園があるようだった。この道で間違いないのだけど僕はますます不安だった。だって誰もいないじゃないか。着いたとして、本当に開催しているのか?こんなに人気のないイベントなのか?
ついに大きな道に突き当たり、信号を渡って、まっすぐ行くとライトアップされた街路樹が並んで立っていた。真っ白にライトアップされた街路樹は、まるで骨のようで、何かしら不気味な雰囲気だった。人通りもまばらで、その寂しさが、なんともいえない不気味さを放っていた。
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本当にここで合ってるんだろうか。確かにここは植物園に通じる道だろうが、あまりにも人は少なすぎる。足取り重く進むと、警備員らしき人が赤く光る誘導灯を持って立っていた。
その近くに、チケット売り場と書かれた看板があり、小さな事務所みたいな、交番のような簡素な作りで、今にも消えそうな蛍光灯が灯っている建物に、近づいていくと、やはりチケット売り場だった。
誰も並んでいない、寂しいチケット売り場だった。
入口を覆う黒いカーテン
チケットを買い、夜の植物園へ入ると、さらに寂しくなった。点々とライトが置かれているだけで、辺りはやっぱり暗い。そして広い。さらに人もいない。たまにすれ違うカップルとかがいるぐらいだ。
さらに大きな道を進むと、1台のキッチンカーと白いテントがあり、テントにはこのイベントのグッズが売られていたが、そこにもやっぱり人はいない。そしてその向かいに眩しいほどの光でイベント名が書かれた看板があり、その向こう側に植物園の温室があった。
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温室に向かうには、池に架かる橋を渡らなくてはいけなくて、その橋が真っ赤にライトアップされて、イベントを盛り上げているはずだったが、この橋を渡っているのは、僕を含めて3名ほどで、寂しさの演出としては十分だった。
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一体僕はどこに行くんだろう・・・
SNSの広告では、「昨年大好評で8万人が来場されました。ご好評につき、今年も開催します。」と書かれていたはずだったが、この来場者数の少なさに、僕はたまらなく不安になった。温室から漏れる光は、あまりにも暗くて、派手なライトアップがされているような気配はない。いやただ、外から見ているからであって、中はどうなのかわからないけれども、来場者数のこの少なさだ。イベントの成否を物語っているような気がして
失敗したかな・・・と感じた。
温室の入口には、ロープが張られてあって、スタッフが少々お待ち下さいとアナウンスした。その間、注意事項を流す動画を見せられる。たぶんこの注意事項を見ないとロープを開けてくれないのだろうが、この人の少なさに、ロープも注意事項を流すモニター2台も、シュールな存在になってしまっているのは否めなかった。
そしてスタッフが「どうぞお入りください」と案内し、入口を覆う黒いカーテンを手で広げてくれた。なんか高校の文化祭っぽいなとか思ったし、これからお化け屋敷にでも入るのかとも思ったし、なにかしらのカルトな教団の秘密の集会があって、中では仮面をつけた妖艶な裸の男女がたくさんいて、乱交しているのではないかとさえ思われた。
没入:光・音・匂い
植物園の中に入ると、霧のようなものがゆっくりと流れていて、光の軌跡を際立たせていた。赤の時はまるで燃えるような夕陽がジャングルに照り付けているようだったし、青い時は月の明かりが降り注いでいるようだったし、緑の光はジャングルのもつ生命力が光を放っているようだった。
植物がシルエットになり、葉っぱの間からスッと伸びる光の帯に、霧が漂いゆらゆらとゆらめている様は、先ほどまでの不安をすっかり忘れさせて、ただただ見惚れてしまった。
それに植物の独特の香りが鼻腔を潤す。土の香りや、水の気配、そして霧が立ち込める瑞々しさ。
来てよかった・・・
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植物園の温室エリアは、体育館がいくつも入るぐらいの大きさで、温室は8つのエリアに分けられていて、回遊しながら植物を見て回る。人が3人ぐらい通れるほどの幅の通路に沿って歩いてゆく。
幻想的な雰囲気を、素通りするように歩いてしまっては、すぐに出口に辿り着いてしまうため、僕を含めた他の客は立ち止まってスマホで撮影したり、天井を眺めたり、池から噴き出す霧を見つめたりしていた。
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ノイズと感性の停止
この暗がりの空間に、光のシャワーを浴びて、この刺激にも慣れた頃に、白いジャンパーを来た女性客にふと目がいった。黒だと気にはならなかったと思うのだけど、白がライトを反射して、まるでライトアップされた夜の観覧車のように、否応でも目に入ってきた。
白ジャンパーは、腕を上げたり腰をくねらしたり、小刻みに動きダンスをするように、会場に流れる音楽に合わせて動いていた。まぁ気持ちはわかるのだけど、この狭い通路でやられると、注意がそちらに向いてしまう。
次第に、僕はこの素晴らしい空間から引き戻されて、白ジャンパーの世界に連れ去られてしまった。
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(はやく行ってくれんかな・・・)
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僕は置いていたベンチに座り、天井を見上げて、赤から青へ変わり緑に色が変わってゆくパターンを覚えてしまうぐらいに、ベンチで座っていた。まだ白ジャンパーは数メートル先で音楽に合わせて存在していた。
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(まだいるのかよ・・・)
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赤の時はピンクになり、青の時はブルーに、緑の時だけホワイトに見えた。あぁ、僕はすでに白ジャンパーを観察対象にしてベンチで退屈しのぎをしている。
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(何をしてるんだっけ・・・?)
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開園100周年記念で開催しているLIGHT CYCLES KYOTO(ライトサイクル京都)に来て、ライトアップされた夜の植物園を観覧しているんだけど、白ジャンパーが踊り狂っているので、僕の感性のスイッチは切れてしまって、まだ先に進まないのかを待っているという状況を思い出した。
もう僕はしびれを切らして、追い抜いてしまおうと思った。そのほうがゆっくり観覧できるし、せっかく誰もいないガラガラの空間なんだから、というかガラガラだからこそ人が目立つという空間に、僕は居合わせてしまっているのだけど・・・。
他の客との距離感が気になってきた僕は、ノイズが飛んでこない距離を保つことに意識が向き始め、通路を曲がったところにカップルと鉢合わせして、気まずさがざわわと沸き上がってきたと思ったら、トンネルのところで撮影しはじめたものだから、また再び通るに通れなくなってしまった。
まただ・・・
すごく気まずい時間が流れている。カップルが楽しそうに写真を撮っている中で、後ろで僕が待っている。カップルのラブラブ世界からは、僕は端のほうで存在しているんだろうが、僕の世界からすれば、このカップルの存在は端どころか、かなり大部分の占めていて、居心地悪くて仕方がなかった。
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これは何だったのか
終始こんな感じで、カップルを待っていれば、白ジャンパーが追いついてきて、それをまとめて追い抜いてしまって、も、また前の客にぶつかり、そこから距離をとっていると、カップルに追いつかれ、白ジャンパーが踊りながら追いついてくる。
ついに最後のエリアに入り、やっぱり白ジャンパーは踊り狂っていて、カップルは出口付近の花でまたラブラブ撮影会となった。出口付近は更に通路が狭かったので、僕はラブラブ撮影会に塞がれて前に進めず、その場を動けず、光だけが何度も色を変えていた。
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(・・・・・・)
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夜の植物園という空間で、光の演出をしている。楽しみにしていただけに、電車の中から感性が働き始め、シンプルな世界へ迷い込んだ。そこから賀茂川沿いの暗くてミステリアスな街並みを歩いて、不安になったりもした。それはそれで趣があったし、感情の揺れも含めて物語性があった。
そして温室へ渡る橋は、池の上に立つ金閣寺を模倣されて作られた構図で、そこも赤の演出で見事なまでに怪しい雰囲気だった。しかも来場者が数組しかいないというのが、増し増しの怪しさを醸し出していた。
そして黒いカーテンを抜けた時の感動からの、白ジャンパーとカップルにサンドイッチにされて、そこからノイズだらけの世界を歩いてきて、仮面をつけた妖艶な宗教的な乱交ではなかったものの、ある意味まぁまぁの乱交だった。
犯されまくった気分だ・・・
ぐったりしている。
最終行
これも、もしかしたらアートだったのかもしれないな。
シンプルな世界から複雑な世界へ迷い込むアートなのかもな。

