親も人だから迷うんだよ

親も迷うんだ
この導き方でいいんだろうかと

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親はいつだって子ども優先で

夕方、風が少し冷たく感じられるようになったころ
息子から「メシいこうぜ」と短いメッセージが届いた。

着ようとしていたトレーニングウェアの袖を見つめたまま、僕はひとつ息を吐いた。
実は今日はコナミ(ジム)に行こうと思っていたんだ。
なぜかこういうタイミングで、彼はふいに現れる。
不思議だけど、これまでもずっとそうだった気がする。
自分の事はとりあえず後回しだ。

仕事で疲れているのだけど

助手席に身を預けて、息子の声をBGMのように聞きながら
僕の体は、仕事の疲れを少しずつ手放していった。
いつのまにか短い眠りに落ちていて、
夢を見た気がしたけれど、もう思い出せない。

気づけば窓の外は暗く雨がフロントガラスに打ち付けていた。
「たから寿司」の看板が目に入った。
どうやら着いたようだ。

本当にこれで良いのだろうか

カウンターに並んで座ると、息子は待っていたかのように話し始めた。
これからの夢のこと、東京のこと、仕事のこと。
未来について語っているのだが
どこかで、昔の僕の声を聞いているような気がした。

言葉の奥に、すでに世界を知ったような根拠のない自信が渦巻いていて、
それが伝わってくるぶん、僕の中に危ういものを感じた。

「まだ何も始まっていないのに」と思う僕と
「信じてやりたい」と願う僕。
ふたつの気持ちが交差しながらも、
そのとき僕にできたのは、黙って耳を傾けることだけだった。

話の途中で、息子がちらりとこちらを見た。
あの一瞬に、彼なりの“確認”があったのだと思う。
目が、言葉より先に何かを伝えてくる。

「大丈夫。ちゃんと聞いてるよ」
そう応えるように、僕はそっと箸を置いた。

息子を完璧に理解することは、たぶんできない。
でも、わからないままでも
同じテーブルにつくことはできる。

親も人だから迷うんだよ

ふと、思った。
かつては「導くこと」が親の役目だと思っていたけれど、
いまは「隣で迷うこと」もまた、ひとつの支えなのかもしれないと思っている。

家族って、正しさじゃなくて、「寄り添いのカタチ」なのだと思う。
離れていても、すれ違っても、
同じ空の下で、想いをつづけることはできる。

息子の横顔を眺めながら
自分の中の時間も、少しずつほどけていった。

迷いながらでも、守れるものがある。
そんな夜だった。

雨の音が、いっそう強くなっていった。

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この記事を書いた人

福祉事業の経営をしてます。①小規模多機能のケアマネ②現場の介助③厨房で料理作り④体操教室など地域ボランティアをしています。
「やってみる」を軸に人生の幅を広げます。ウインドサーフィン・登山・カメラ・バイクはSV650・競馬・FX・株式投資・投資信託などなど。体験を記事にしています。

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