それぞれの場所で、つづく物語

息子のバイクと、心のエンジン音(リライト版)

風が少し冷たく感じた夕方、
倉庫のほうからエンジン音が響いた。
息子がバイクを出していた。

息子

「友達と服屋に行ってくる」

そう言って、軽く手を振り、街へ走り出していった。

どうやら服作りの参考にしたいらしい。
店に並ぶ服を観察して、パターンや縫製を学ぶのだという。

その話を聞いたとき、思わず笑みがこぼれた。
いつの間にか、そんなふうに自分の世界をつくっている。


ものづくりの原点

息子の「ものづくりの芽」は、幼いころからあった。
段ボールで妖怪ウォッチのバッジを作ったり、
壊れたおもちゃを分解して直したり。

買えないものは、自分で作る。
その感覚を、ちゃんと見守ってくれていた人がいた。
日々の暮らしの中で、手を動かすことの楽しさを教えてくれた——
ママの存在がそこにあったのだと思う。

だから今、服づくりという形でその感覚が花開いたのを見ると、
時間のつながりを感じる。


夢中になれる時間の尊さ

二十歳そこそこで「夢中になれること」に出会えるのは、
本当に幸運なことだと思う。

きっと息子なりに考えて、悩んで、探してきた。
その答えがようやく形になっている。

きっかけは、留学中に出会った友達のひとこと。
「一緒に服飾の学校行かない?」
その誘いが、彼のエンジンをかけた。

人との出会いが、人生の方向を変える。
そんな瞬間を間近で見ているのは、
なんだか少し感動的だ。


見守るという関わり方

夜、息子からLINEが届いた。

息子

「今日遅くなる。ごはん、部屋に置いといて。肉、買っといて」

言われた通りに買い物に行き、
ごはんを詰めて部屋の机に置いておいた。

部屋は相変わらず散らかっていたけれど、
作業スペースはきっちり区切っていて、
その几帳面さにちょっと笑った。

彼のやり方があるのだろう。
僕の役目は口を出さず、ただ見守ること。

6年前の僕なら、「将来を考えてこうしたほうがいい」と
正しさで語っていたかもしれない。
けれど今は、彼のペースを尊重することの大切さを知っている。


手放すことで見えてくるもの

この数年で、僕自身の中でも
「愛」の形が変わってきた。

かつては「所有」や「責任」と結びついていたものが、
今は「尊重」や「自由」と結び直されている。

それはきっと、
息子や家族との関係を通して学んできたこと。
人は、人を支配するのではなく、
信じることでつながるのだと、ようやくわかってきた。


それぞれの場所で、続いていく物語

息子の人生には、これからいくつもの出会いと別れが待っている。
そのたびに、彼はまた何かを学び、変わっていくのだろう。

そして僕もまた、僕の場所で学び続けていく。

過去を責めず、誰かを正そうともせず、
ただ、それぞれの人生が穏やかに続いていけばいい。

そんなふうに思えるようになった今、
ようやく少し、静かに風を感じられるようになった。

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この記事を書いた人

福祉事業の経営をしてます。①小規模多機能のケアマネ②現場の介助③厨房で料理作り④体操教室など地域ボランティアをしています。
「やってみる」を軸に人生の幅を広げます。ウインドサーフィン・登山・カメラ・バイクはSV650・競馬・FX・株式投資・投資信託などなど。体験を記事にしています。

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