残酷だなぁ
今日は宿にも泊まれず、
静かな夜に馬小屋でイエスキリストが生まれた日。
クリスマスの意味はそっちのけで
恋人たちが街へ繰り出し、
イルミネーションでキラキラ光る夜を楽しむんだろう。
ラブホテルも満室だろうなぁと下世話な話をスタッフとしていた。
スタッフが「主任はどうするんですか?」というので
知ってるくせにその問いは残酷だなぁと笑った。
実際はクリア直前のゲームがある。
ゆっくり進めていたのでもうレベル80という驚異的な強さになってしまった。
だからラスボスを無双して、物語を終わらせるクリスマスの予定だった。
だけど予定が変更。
解体屋の社長さんが「やまちゃん暇やろ。おいでよ」という。
これまた残酷な誘い文句だなぁと笑った。
プレゼント
クリスマスといえば鶏だな。
なんか買っていくかとlineしたら「なにもいらない」という。
そういう訳にもいかないだろう。
食事を戴いて、食っただけでさよならは、なかなかに勇気がいる。
飲み会終盤に合流して割り勘になったような後味の悪さがある。
だから飾り物になっている山崎ウイスキーを持っていくことにした。
ハイボールを好んで飲む人だから喜んでくれるだろう。
道端に1万円落ちてたのを見つけたぐらい瞳孔が広がるだろうな。
ちなみにこれは7000円だ。
豪華な料理に見合うプレゼントになるはずだ。
他人の犬
お招きいただく家には黒い足の短い犬がいる。
どこが可愛いのか僕には全く愛着がわかないが
犬が僕を見て吠える。僕を見て吠える。やっぱり吠える。
飼い主の社長さんは、犬を僕に慣れされようとする。
餌を僕の手に置くんだ。
すると犬は、僕に警戒しながら寄ってくる。
そして僕の手の上に置かれた食い物を
ベロで餌をすくってむしゃむちゃ食べる。
手のひらが唾液で汚れる感覚に鳥肌がたつ。
犬の唾液が残る・・・
質感と臭いを拭うようにこたつの毛布でさりげなく拭く。
犬は満足そうにしていたが
再び、僕と距離をとり
しっぽをふりふりしながら吠え始めた。
手を汚しただけだった・・・。
このブサイクな犬め。
それぞれのクリスマス
カタカタと事務所に拙いタイピングの音が響いていた。
外はすっかり暗くなり、先ほどまで降っていた雨の音は聞こえない。
時計に目をやると18:00を差そうとしている。
僕は彼女に声をかけた。
ライカー副長今日はクリスマスだよ。



知ってますよ
タイピングの音がやんで、彼女は僕に向かって言った。



だって誰もいないんだもん
夫は仕事で、子どもたちはそれぞれのクリスマスを過ごすらしい。若い頃とは違い、クリスマスの過ごし方は生活臭が漂っているなと笑った。
主任はどうするんですか?と尋ねるので、僕に恋人がいるように見える?と返答すると、ですよね。と彼女は笑って答えた。
君、いまわかってて聞いたよね・・・
だって主任いつも不精ひげ生えてますよ。服だってシワだらけだし、髪もセットするとかしないんですか?畳みかけるように質問攻めにあう。だんだん耳の下あたりがしびれる感覚になってきた。
彼女のいつものパターンだ・・・
彼女は話を始めると止まらないんだった。蜂の巣をつついたみたいに言葉がどんどん投げかけられて、僕はだんだん面倒臭くなってきた。
すると、「あ!今めんどくさいと思たでしょ?」と。彼女は感覚で僕の心の動きがわかるようで、さらに面倒臭いなと思った。
主任は冷たい人なのか、優しい人なのかどっちなんですか?と言うので、僕は犬が嫌いな人間なんだよと答えた。
どういう意味ですか?と言うので、余白を残して答えたつもりなんだけど、解らないようなので、犬に好かれない人だってこと。
すると彼女は僕の顔をまじまじ見て、なるほどと思ったのか、「犬って正直ですからね」と言った。
自分の傾向を知っておく
犬は正直なのかもしれない。
例えば車を運転していて、自転車がコケていたら、僕は素通りする。誰かが助けるだろうと。面倒な事に関わらないのが吉だ。それが例えどんな美人さんであっても関わらないのが吉だ。
僕は僕を良く知っている。
もしその場に僕しかいなかったら、助けるしかないだろうけども、声を掛けたら情が沸く。情が僕の判断を歪ませる。いったん声を掛けると相手の表情や声が質感を持つ。そして情が沸き上がり、病院まで一緒に付き添い家族に連絡をとり、まぁそんな事になるだろう。
僕は情に流されやすい。
それは他人との境界線が甘々だから生じるエラーだったりするのかもしれない。
冷たい人と優しい人
冷たい人って感情に振り回されないんだろう。心の内側では感情は波立っていても、これは僕が引き受ける問題じゃないと、持っている人に丁寧に返してあげれるんだろう。
優しい人って相手の感情に影響を受けすぎて、自分と他人をごっちゃにしちゃって、これは誰のものなのかわからなくなってしまうんだろう。
冷たいと優しいは、そんな質感をもっているような気がする。
犬は嫌いなんだよ。
他人の犬は特に愛着が持てない。
それは至極まっとうな事だと思うんだけど
社長さんは違うようで、自分の犬を僕に慣れさせようとする。
自分のブサイクな犬に向かって言う。「他人の僕を好きになれ。」
僕に向かって言う。「自分のブサイクな犬を好きになれ。」
これは社長さんの想いであって、僕の想いじゃないんだよね。
まるで塀のない家みたいなもんだ。
それぞれの物語
昔の僕は塀のない家の住人で、隣の住人とあいまいな境界線でふわふわしてた。
風が吹けばあっちに流れ、雨が降ればずぶ濡れに。
草が生えれば誰が刈るのか、落ち葉が落ちれば誰が掃除するのか?
過去はそんな物語だったが、今は違った物語を読み進めている。
ちゃんと塀を作り、自分の庭に入れる人を選んでいる。
土足で入られたら、ちゃんと門を閉める。
相手の塀をよじ登ったりもしない。
今日はクリスマス
それぞれのクリスマスの過ごし方がある。
それ以上でも以下でもない。
クリスマスという物語をどう描くかは
その人のイメージがあるので
ただ受け入れればいい。
そして僕のイメージもあるので
僕は僕で自由に描けばいい。








